災害医療・社会歯科学講座

神奈川歯科大学大学院歯学研究科では、災害時の歯科医療のあり方を総合的に研究すること及び災害時に高い実践力を備えた歯科医療従事者の養成を目指すため、平成24年度に本邦初の「災害医療歯科学講座」を新設しました。また平成28年度には医学部を併設しない大学歯学部としては本邦初、法医解剖を行う「神奈川剖検センター」を設立し、最新型のCTによる画像診断、国内屈指の鑑定実績をもつDNA鑑定をあわせ、最先端の死因究明・個人識別を行っています。

さらに令和元年には、社会の必要性に応えるべく、口腔衛生学と社会歯科学講座との統合により、「災害医療・社会歯科学講座」に発展しました。

本講座新設の背景

東日本大震災において、歯科医師が様々な被災現場で貢献していたことはマスコミ報道などで広く知られています。特に津波による身元不明死体の身元特定作業に歯科所見の生前死後の比較照合検査が大きく貢献しました。また避難所や仮設住宅において、突発的な歯の痛みや義歯を紛失した方々に応急処置や即時義歯を作成して、痛みや食事困難な状況の改善など、さまざまな貢献をしました。しかしこれらの歯科医師の活動は充分準備されたものではなく、場当たり的に行われたのが実情で、災害時の歯科医療のあり方を総合的に研究することが緊急かつ重要な課題となっています。

現在は、本学の所在する横須賀市が三浦半島の活断層の集中地帯であることから、大震災の影響によって地震発生の確率が大きく高まっていると報告されているため、横須賀市と防災協定を結び、大学としての役割を積極的に果たしています。

大学教育においても、大震災時における歯科医師の必要性への認識が進むことに合わせるように、モデルカリキュラムや歯科医師国家試験出題基準に「災害」のキーワードが含まれるようになりました。しかし、現状は、卒前及び卒後教育において、災害時に対応した歯科医師を養成するためのカリキュラムを本格的に導入している教育機関はまだ多くありません。これは歯科医療の大学・大学院教育における専門家の養成不足が大きな要因であると考えられます。そこで本学大学院歯学研究科では、「災害医療・社会歯科学講座」において世界に先駆けた災害歯科医療研究の構築と、その専門家育成を目指すことを目標としました。

研究教育方針

本講座は取り組みとして、大学院教授の多くが併任し、広く基礎・臨床の研究が可能なオープン講座制をとり、講座長には剖検センター長の長谷川 巖教授(医師・医学博士)が就任しました。

教育面では、剖検センターを生かしたユニークな教育プログラムの他、多彩なプログラムを設置しています。

横須賀・湘南地域災害医療歯科学研究センター

前述のように、これまで災害と歯科を関連させた研究は非常に遅れており、世界的にみても系統的研究は行われていませんでした。本学は平成24年度に「横須賀・湘南地域における大規模災害時の歯科医療実践モデルの創出と人材育成拠点の形成」を提案し、文科省の私立大学戦略的基盤整備事業に採択されました。

採択を契機に、本講座を母体としてこの事業の中心的役割を果たす「横須賀・湘南地域災害医療歯科学研究センター(センター長:山田良広教授)を設立し、同年より運営を開始しています。

以上を踏まえ神奈川歯科大学大学院では、横須賀・三浦半島地域を拠点として、学術的に世界に先駆けた災害医療歯科学の確立と、災害に強い地域作りに歯科医療の面から貢献することを目指しています。