ごあいさつ

講座長メッセージ

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人口構造が変化し、1970年ころまでは20%程度だった50歳以上の割合が急激に増加しています。2060年には50歳以上は60%(65歳以上は40%)程度になると試算されています。超高齢社会です。人生100年時代を迎え、高い医療水準と医療技術で治す医療から高い幸福度やQOLを実現する癒す医療が求められています。それをいち早く見越した欧米ではこの理念を含む統合医療が盛んにおこなわれるようになってきています。

統合医療が近代西洋医学と補完代替医療を組み合わせた医療と考えられているのは、統合医療の実践を臨床からの表面的な視点で捉えるからで、統合医療とは、「個人の年齢や性別、性格、生活環境さらに個人が人生をどう歩み、どう死んでいくかまで考え、西洋医学、補完代替医療を問わず、あらゆる療法からその個人にあったものを見つけ、提供する受診側主導医療」です。人を幸せにする医療と言い換えてもよいでしょう。

治す医療である西洋医学については、基本的に根拠に基づく医療Evidence-based Medicine(EBM)が求められますが、EBMは人工知能に凌駕される日が来ることは明らかです。2017年、東京大学医科学研究所に入院していた急性白血病の患者さんの治療が奏功せず、敗血症の危険も生じていた状況で人工知能による分析の結果、別の診断が下され、人工知能による治療に変更したところ、軽快退院に至りました。人口知能は10分間で2千万件の論文を読破したそうです。人工知能の台頭によりEBMについての人間の医師の必要性は低下するでしょう。しかしながら、癒す医療(補完代替医療)は科学的根拠に乏しく、人工知能では対応ができません。科学的根拠に乏しい癒す医療こそ人間の医療者にしかできません。それは科学的根拠だけではなく、価値観や人生観、死生観まで理解できるのは人間だけだからです。

ところが、日本では医学界や行政が統合医療と積極的に取り組んでこなかったため、さまざまな民間療法が野放し状態となり、いわゆる癌難民などの問題からの被害者もあとを絶ちません。統合医療の実践には、近代西洋医学に加えて、さまざまな伝統医療や補完代替医療の知識が求められますが、日本には補完代替医療を総合的に学べる高等教育機関はありませんでした。

この度、本学大学院に、統合医療学講座を設ける運びとなり、そこで統合医療の修得講座を開講します。漢方医学、アーユルヴェーダなどのアジア伝統医学、アロマセラピー、ホメオパシーなどのヨーロッパの伝統医学、カイロプラクティック、オステオパシーなど欧米では認められているにもかかわらず日本では認められていない施術などのみならず、癌やメンタル領域へのアプローチ、そして医療に欠かすことのできない医療哲学、さらには研究法など2年間で統合医療の基本を習得することができます。学位取得はできませんが、学校教育法第105条及び学校教育法施行規則第164条の規定に基づき、神奈川歯科大学大学院より履修証明書が発行されます。

これからの時代に必要な医療です。世のため人のため、統合医療を正しく学んで正しく実践していただくことを願っています。

神奈川歯科大学大学院統合医療学講座
特任教授 川嶋 朗